「これが近年最高のホラーだ」と評された映画『ヘレディタリー/継承』。
作品紹介
予告
あらすじ
グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは、過去の出来事がきっかけで母に愛憎入り交じる感情を抱いていたが、家族とともに粛々と葬儀を行う。エレンの遺品が入った箱には、「私を憎まないで」というメモが挟んであった。アニーと夫・スティーヴン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーは家族を亡くした喪失感を乗り越えようとするが、奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする…。やがて最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が彼女たちを襲う。一体なぜ?グラハム家に隠された秘密とは?(出典:アマゾン)
所感
高い評価をえてますが観る人を強烈に選ぶ“嫌な映画”でもあります。
前半の完璧な不穏さに圧倒され、後半の展開に戸惑い、ラストで賛否が分かれる──まさに一筋縄ではいかないホラー体験でした。
只者じゃないオープニング
前半8割くらいは、ほんとうにすごく面白い!
冒頭、カメラがドールハウスをなめるように移動し、その一室にフォーカスが合うと、そのままシームレスにドラマが始まる──ここからもう完全に引き込まれました。
「あ、これは只者じゃない映画だな」と思わせるオープニングです。
不穏さを演出する静寂と音
さらに全編を覆うのは、不穏極まりない空気感。
それを支える(盛り下げる?)のは、静寂=無音と、不協和音的で重苦しいBGM。
観ているだけで、じわじわ精神を削られるような感覚に襲われます。
狂気に落ちていく家族
物語は、狂気に転げ落ちていく一家を描いていきます。
前半のキーは、ミリー・シャピロ演じる妹。あの異物感、不気味さは忘れがたい。
そして後半は、母親役のトニ・コレット。彼女の迫真の演技が作品を一段と恐ろしくしています。
トラウマ級の「舌打ち」
そして何より印象的なのが、「舌打ち」。
ただの「カチッ」という音が、ここまで恐怖を呼び起こす演出は前代未聞。
静寂のなかに突然響くそれが、観客にトラウマ級のインパクトを残します。
終盤の惜しいところ
しかし正直、ほんとうのラスト手前からトーンが崩れていきます。
演出もやや安っぽく、恐怖が薄れて、むしろ笑えるくらい。
落ちの意味は分かるのですが「ふーん」で終わってしまった印象です。
どこか『ゲット・アウト』を思い出しました。あちらは初めからブラックコメディ視点で観て楽しめたので納得ですが、『ヘレディタリー』はそれまでの張り詰めた緊張感がすごかっただけに、急落感がもったいない。
悪魔ものと文化差
思えば『エクソシスト』などもそうですが、悪魔モノってやはりキリスト教圏と日本人とでは感じ方が違うのかもしれません。
宗教的なリアリティがないぶん、どうしても「演出」として見えてしまう。
タイトルの意味とうんちく
タイトルの“Hereditary”は副題にある通り「継承」という意味。
監督のアリ・アスターは「自分自身がすごく嫌なものを継承してしまった経験がある」と語っており、その“呪いのような感覚”を映画に込めたのだそうです。
だから、怖がらせることよりも「とにかく嫌な気持ち」を観客に植え付ける──そこに重きが置かれているわけです。
実際、この作品はジャンルとしてはホラーに分類されながらも、従来のホラー映画の「お化け屋敷的な怖さ」とは一線を画しており、「不快で気味の悪い体験」として強烈な印象を残します。
総評
とにかく終始イヤな話。
終盤はグロいシーンもあり、ラストの展開も「??」となる人も多いでしょう。万人におすすめはできません。
ただ、強烈な体験として心に爪痕を残す映画であることは間違いなく、私は「あり」な作品でした。
蛇足:公開当時の反響
『ヘレディタリー』はサンダンス映画祭で話題をさらい、批評家からは「近年最高のホラー」と絶賛された一方、一般観客の評価は賛否が割れました。
その理由はまさに本作のもつ「不快感」──ジャンプスケア的な爽快感がないので、ホラーのエンタメ性を求めた層は肩透かしを食らったと思われます。
でも!だからこそ、真のホラーファンに語り継がれる作品になった、とも言えるのでは。
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