映画日記「恐怖の報酬」デジタルリマスター版  原題:SORCERER


命がけでニトロを運ぶ男たちの静かに狂っていく“地獄のロードムービー”「恐怖の報酬」見てきました!

作品紹介

予告

あらすじ

南米のジャングルを舞台に、反政府ゲリラによって爆破された油田の火災を鎮火させるため、1万ドルの報酬と引き換えに、危険なニトログリセリン運搬を引き受けた4人の男たちを描く

所感

 「エクソシスト」監督が放った異色の大作

「エクソシスト」のウィリアム・フリードキン監督が、
完成までに2年・2000万ドル(今の価値でおよそ100億円)をかけて作り上げた超大作。
…と聞けば、そりゃ期待しますよね。

ただ正直、この作品の存在を知らない人も多いのではないでしょうか。
私も「今さらデジタルリマスターで復活?」という興味本位で観たクチ。
でもその結果――「あ、なるほどね」という、ちょっと複雑な感想に落ち着きました。

 前半は長い、けど“地獄”の準備時間

物語は、犯罪や過ちで人生の行き場を失った男たちが、
南米のジャングルで「ニトロ爆薬をトラックで運ぶ」仕事に挑むというもの。

この“運搬”に至るまでが、正直長い。
各キャラクターの背景をじっくり描くものの、テンポは重く、
「これいつ爆薬出てくるの?」と何度か時計を見たくなる時間が続きます。

でも、ここを乗り越えると一気に映画が覚醒します。

 ニトロ運搬パートは手に汗握る傑作ゾーン

一度トラックが走り出すと、まるでドキュメンタリーのような臨場感。
ぐらぐら揺れる吊り橋、崩れる道路、荒れ狂う熱帯の天候。
ポスターにもなっている、嵐の中の“トラック吊り橋シーン”はまさに伝説級。

1977年当時、もちろんCGなんて存在しない時代。
全てが実写、実際の危険を伴う撮影。
俳優たちも監督も本気で命を張っているのが伝わってきます。

このリアルさが、「地獄の黙示録」にも通じる“本物の狂気”を生んでいます。
手に汗をかくというより、見終わった後に全身が冷たくなる感じ。

 ただし、全体としては“静かな狂気”

以前みたリマスターの「地獄の黙示録」のような狂乱のスケール感を期待すると肩透かしかもしれません。

前半の長さと後半の緊張感のギャップが大きく(この辺は黙示録と逆)、

「派手な戦争映画」ではなく、“泥と汗と絶望”の物語。
静かに狂っていくような空気感が特徴です。

でも“リアルな緊迫”を味わいたい人には刺さるのかもしれません。
とくに後半のニトロ運搬シーンは観る価値はあります。


夜中に見るとちょうどいい地獄感

全体を通しての印象は「よくできてるけど地味」。
当時カット版(約30分短縮)で上映されていたそうですが、
正直、そちらの方がテンポ的には正解かも。

ただ、CGなし・現場実写で作られたあの“生の映像”の迫力は唯一無二。
カメラのざらつきや色調の荒さも、逆にドキュメンタリーっぽくて味があります。

今となっては、映画史の中で“狂気の労作”として語られる一本。
深夜に静かに観ると、妙に沁みるタイプの映画です。

まとめ

「恐怖の報酬」は、派手さよりも“リアルな死の匂い”を描いた異色のロードムービー。
地味だけど確かに記憶に残る、そんな一本です。

おすすめ視聴スタイル:深夜0時、照明を落として静かに。
画面の湿気と緊張感が、妙にクセになります。

 プチ蛇足:タイトル「Sorcerer」の意味は?

実は「Sorcerer(魔術師)」という原題、内容とはあまり関係がありません。
この“意味不明さ”が公開当時の興行失敗の一因とも言われています。
監督によると、

「恐怖そのものが“魔術師(Sorcerer)”なんだ」
という哲学的な意図があったそうですが、観客にはちょっと伝わりにくかった模様。

また、本作は1953年のフランス映画『恐怖の報酬(Le Salaire de la peur)』のリメイク。
こちらのオリジナル版は、より“人間の弱さ”に焦点を当てた名作として知られています。
両方見比べると、フリードキン版の“リアリズム偏重”ぶりがよくわかって面白いです。

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