ミニシアター系のドキュメンタリー作品なので、正直なところこれ誰やねんと思う方のほうが多いかもしれません。本作は、福島菊次郎さんという超高齢の報道写真家に密着した記録映画です。
公開のタイミングがちょうど東日本大震災に伴う原発事故のあとだったこともあり、社会派な暴露話がメインなのかなと最初は構えていました。もちろん事故現場である福島へ足を運ぶシーンも登場するのですが、あくまで映画の主役は福島菊次郎氏その人。彼の圧倒的な生き様にフォーカスした内容になっています。
国家からの庇護は受けないという自身の強烈な信念に基づき、なんと年金さえも受け取りを拒否して、自給自足に近い生活を送りながら報道を続ける姿にはただただ頭が下がります。
ただ、同時にそこまでするかという戸惑いも正直ありました。もう少しずる賢く、適度に国に甘えてもいいお年頃なのにと思う反面、権力に対して一切の妥協を許さず、頑なに拒み続ける福島氏の心の強さは素直にかっこいい。見ている間、彼への共感と驚きで感情がずっと揺れ動いていました。
個人の生き様とは別に、本作で語られる広島原爆投下後のリアルな歴史的背景は非常に興味深いです。
とくに原爆傷害調査委員会(いわゆるABCC)による放射線障害の研究目的の実態はショッキングでした。被爆者の治療を行うわけではなく、あくまでデータ収集の調査目的として被爆者遺体の買取や解剖実験が行われ、その数は数千体に上ると言われています。
さらに、そんな痛ましい惨状に蓋をするかのように、かつて川沿いに密集していた戦後のバラック街(原爆スラム)を一掃して、現在のきれいな平和公園へと変えてしまった都市開発の裏側。これを知ると、以前のんきに平和公園を観光気分でぷらぷら歩いていた自分を思い出し、なんとも複雑な心境になりました。歴史の表舞台には出てこない不都合な事実の重みを感じます。
不都合な真実や歴史的な部分はたしかに重苦しいのですが、映画全体が暗いわけではありません。とにかくこの異常に元気なおじいさんの人生が、ある意味ぶっ飛んでいて思わず笑ってしまう場面も多いのです。
制作陣に笑わす気はないのかもしれませんが、真面目さと滑稽さのバランスが絶妙で、お堅いドキュメンタリー特有の取っ付きにくさをうまく和らげてくれています。
なにかに忖度することなく、これほどまでに確固たる信念をもって生き抜けば、福島菊次郎さんのようにエネルギッシュに長生きできるのかもしれない。そんな風にも思えてきて、鑑賞後はちょっと元気をもらえる、とても見応えのある作品でした。
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