「ターセム・シン」監督、ライアンレイノルズ主演「セルフレス/覚醒した記憶」見てきました!
あらすじ
建築家ダミアンが、余命半年と宣告される。偉大な知性とカリスマ性で政界や財界を操ってきた男も、ガンには勝てなかったのだ。科学者のオルブライトから最新技術で培養した肉体に頭脳を転送しないかともちかけられたダミアンは、莫大な料金と引き換えに別の肉体で新たな人生を始める。だが、彼の肉体はクローンではなく、妻と幼い娘がいるマークという特殊部隊の兵士だと判明、真実を知ったダミアンはオルブライト率いる秘密組織に命を狙われる。今、知能×パワー=〈最強兵器〉に生まれ変わったダミアンの、たったひとりの闘いが始まる─(AMAZONより引用)
所感
地味だけど沁みる、“良いベタ”なSFドラマ
「ザ・セル」や「落下の王国」で独特の映像世界を作り上げたターセム・シン監督。あのサイケデリックでアートのような映像を期待すると、本作『セルフレス』は少々地味に感じるかもしれません。
しかし今回は、彼にしては珍しく“映像より物語”を優先した構成。カメラワークや色彩も控えめで、まるで別人のように落ち着いたトーンで撮られています。結果として、派手なビジュアルに頼らず、テーマそのものをまっすぐ描いた良作になっています。
ありがち、だけど「ちゃんと丁寧」な物語
物語の骨格はSFの王道、「他人の肉体に意識を移す」タイプのアイデンティティ系SFです。
このジャンル、古くは1950年代の小説『マインド・トランスファー』や『フェイス/オフ』(1997年)など、形を変えて何度も描かれてきたテーマですが、『セルフレス』はその“倫理的な側面”に重きを置いています。
主人公は老富豪。金の力で若い身体を手に入れた男ですが、手に入れたのは単なる「新しい人生」ではなく、他人の“人生の続き”でした。
ここに「自己と他者の境界」「魂と肉体の関係」といった、古典的哲学テーマが顔を出すのが本作の面白いところ。
主人公も敵も、単純な善悪で割り切れない。
誰の選択もどこかに正義と欲が同居していて、観る側も「自分ならどうするだろう?」と考えさせられます。
こういう“わかりやすくて考えさせる”バランス感覚は、ターセム監督の知的なセンスを感じます。
いいベタな結末と、かわいいヒロイン
ラストは予想通りといえば予想通り。でも、この映画は「ひねり」より「納得」を選んだタイプ。
大仰な展開ではなく、静かに人間らしさを取り戻す物語の終着点が、じんわりと心地いいです。
そしてヒロインのナタリー・マルティネス。
『アンダー・ザ・ドーム』の保安官役で印象を残した彼女が、本作でもしっかり存在感を発揮。
ハリウッドでは“強くてかわいい女性”枠の一人ですが、意外とメインで登場する作品が少ないのが惜しいところ。彼女の健康的な明るさが、重くなりがちな物語にちょうどいいバランスをもたらしています。
タイトル「Self/less」に込められた意味
タイトルの“Self/less”は「自己(Self)」と「欠如(less)」を掛けたもの。
つまり「自我を失う」という意味でありながら、「自己犠牲」や「他者のために生きる」というニュアンスも併せ持つ言葉です。
ラストで主人公が選ぶ道を考えると、このタイトルは非常に象徴的。単なるSFアクションの顔をしていて、実は哲学的な余韻を残す仕掛けなんですね。
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